インターナルコミュニケーションで従業員の行動を促す 〜『インターナル・コミュニケーション経営』著者 清水教授インタビュー(前編)

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近年、企業のグローバル化やM&A、働き方改革等の観点から、社内のコミュニケーション=インターナルコミュニケーション(※1インナーコミュニケーション)が注目されています。 海外拠点や地方拠点、在宅の社員に対して、いかに経営理念や経営目標を理解・浸透させるかが課題になっている企業も多いのではないでしょうか?<br>今回は2019年2月に『インターナル・コミュニケーション経営』を編著された筑波学院大学 清水 正道 客員教授をゲストに2回にわたり、インターナルコミュニケーションがなぜ今注目されているのか、インターナルコミュニケーションの重要性についてインタビューします。

ターゲットは約1万人いた外交員 蓋を開けてみると社内報が読まれていない
ブライトコーブ(以下 BC)大野: 今日はわざわざ弊社まで足を運んで頂きありがとうございます。弊社でもインターナルコミュニケーションを目的とした動画利用の問い合わせが増えており、清水様の著書である『インターナル・コミュニケーション経営』について非常に興味深く拝読致しました。内容についてお話頂く前に、清水教授のご経歴と本書を出版された動機を簡単にお教え頂けますでしょうか?清水教授: 私はもともと新聞社への就職を希望していたのですが、願い叶わず1973年に富国生命保険相互会社に新卒入社しました。当初、人事課で勤務していたのですが、1年半後に広報課へ異動となりました。そこで社内広報を担当しました。BC 大野; 1974年から社内広報を担当されているんですね!驚きです。清水教授: たまたまですが、入社早々人事課長に提案して、学生向けの採用案内ブックを製作しました。私がヘッドとなり、新入社員だけの編集チームを立ち上げてまとめた採用案内ブックが恐らく社内で評価され、社内広報部門に抜擢されたのでしょう。 

異動後は社内報を作成することになったのですが、ターゲットは当時約1万人いた生保レディーの方々です。ただ蓋を開けてみると社内報があまり読まれていない。営業所にいくとゴミ箱に突っ込んである(笑)。社内報の抜本的な改革が必要だと感じ、女性向けの週刊誌を毎週読んで社内報の記事を見直しました。注力したのは、生保レディーの生活と仕事をルポタージュ風にまとめた記事でした。それが非常に好評で、当時の社長にも注目されたんです。これがインターナルコミュニケーションに関わるようになったきっかけです。1977年に日本能率協会に転職し、ビジネス誌編集記者として勤務し、1989年に広報室長、続いて部長になり広報には都合13年関わりました。 

その後は、環境経営コンサルを経て大学で環境経営や広報の科目を教えていました。
BC 大野: 1993年には『企業文化と広報』という書籍を日本経済新聞社から出版されていますが、この経緯を教えて頂けますでしょうか?
清水教授: 日本能率協会に在職していた際に、経済広報センター設立15週年を記念した広報の実務書5巻のシリーズ本が企画された時に執筆に参加しました。当時も社内広報の新しい動きがあり、80社を取材して『企業文化と広報』というタイトルで出版いたしました。
BC 大野: その頃は勿論、インターナルコミュニケーションという言葉はなかった時代ですよね?
清水教授: その頃は社内広報と呼ばれていたのですが、少し内容が狭くなるので経営理念やビジョンなどを含む「企業文化」という言葉を使って、社内広報の成功事例について記載した書籍でした。その後、アメリカの行政改革に関する書籍「行政改革」という書籍を出版したのですが、これが皆様から高い評価を頂きました。 

2002年にも『コーポレート・コミュニケーション戦略』という書籍を発行しており、それ以降も毎年一冊のペースで共著等を出してきました。

インターナルをベースとして対外的な発信を実施していこうという考え方

BC 大野: 実は弊社内では、インターナルコミュニケーションではなくコーポレートコミュニケーションという呼称を採用しています。それは今や従業員だけではなく、パートナーやフランチャイズ、サプライヤーの方々と意識や目標を共有する必要があるからです。
清水教授: そうですね。『コーポレート・コミュニケーション戦略』では、会社が実施する全てのコミュニケーションをコーポレートコミュニケーションと位置づけました。『インターナル・コミュニケーション経営』ではインサイド・アウト型広報に注目しました。会社内の取組成果をベースとして対外的な評判を上げていこうという考え方です。書籍では成功例の一つとして伊藤忠商事様を取り上げています。

同社の岡藤社長(現 代表取締役会長)が商社という一般的には分かりにくいビジネスのステータスを上げることを目標に、2013年から働き方改革の先陣を切りました。具体的には朝方勤務制度や健康経営、脱スーツデイ等の施策の導入により、従業員の生活や仕事がどう変わったのか、そのリアルな動画をテレビCMで流したのです。 

また、商社の仕事をイントラネットの「トップの動静」欄を通じて従業員に伝えています。日本の「総理の動静」も新聞や「官邸ホームページ」で公開されていますよね。同社でも岡藤社長が誰に会ったのか、どのような発言があったのか一挙手一投足を社内に公開しています。これらの施策により商社という分かりにくい仕事イメージを、従業員の働く姿・生活で表現している。しかも動画だから感情の動きも表現される。これを私は、インサイドアウト型経営と言っています。 

『インターナル・コミュニケーション経営』を出版した理由
BC 大野: なるほど、社内での取組をそのまま対外的にも活用していく。コーポレートコミュニケーションが企業ブランディングに繋がる良い例ですね。今話題のトヨタイムズにも通じるところがあるように思いました。そこで今回改めて『インターナル・コミュニケーション経営』を出版した理由を教えて頂けますでしょうか?

清水教授: 今までも社内広報に関心を持っていたのですが、2013年に日本広報学会の理事長に就任した時の総会の懇親会で、ある経営者から「社内広報に力を入れている」という発言を聞いたのが直接のきっかけでした。 

その当時、日本企業は海外・国内企業のM&Aや事業再編成を積極的に実施していました。しかし、合併して数年経っても社内システムが統一されておらず、両社の打合せ会議などでなかなか意見が纏まらないという悩みを多く聞きました。情報システムや人事制度の統合、見直しのみならず、社内広報施策についても課題があるのでは?と思い立ち、研究会を組織して日本広報学会の会員企業23社に現状や課題についてヒアリングを実施しました。結果は、グローバル化に伴う言語やセキュリティの問題、社内Web、SNS利用など各社によって回答は様々でした。 

各社の課題が多岐にわたり、研究会内での議論も迷走したのですが、最終的に「経営理念」にテーマを絞って研究活動を実施することになりました。社内広報といえば、通常は広報部門の方が担当となるのですが、経営理念を社員に浸透させ行動を促すには、広報部門だけではできません。経営企画部門や人事部門、そして経営層へのヒアリング調査が必要になります。そこで大手企業7社に協力を頂いて、改めて企業理念をどのように従業員に伝えたり、共有しているのか、ヒアリングさせて頂きました。 


社長自身が他の役員以上に時間を割いて、従業員に接しようとしている
BC 大野: ヒアリングの結果、企業理念が浸透している会社の成功パターンはあったのでしょうか?
清水教授: はい。企業のトップが従業員との対話を積極的に実施している会社は、従業員に企業理念が浸透している傾向がありました。トップ自身が他の役員以上に時間を割いて、従業員と語り合う場をつくろうとしているのです。また、経営理念を「自分ごと化」させるには、従業員の自主的な行動の場を用意したり、発表の機会などを設定し、優れた取り組みに対して報奨を行うことが非常に効果的であることが分かりました。経営理念を共有するだけではなく、従業員が皆同じ理念に向かって行動していくことが必要です。


BC 大野: なるほど。確かに企業理念を従業員に共有しただけで、従業員がそれを実践しなければ意味がないですね。これが社内広報とインターナルコミュニケーションの差ということでしょうか?清水教授: その通りです。新しい企業文化を作り上げていくことが大切です。そのため、広報部門だけではなく人事・研修部門にも協力してもらう必要があります。そして、経営企画部門やCSR部門が戦略に沿った行動を従業員に促すことが重要です。 

企業のトップが企業理念を従業員に浸透させる意義を理解し、広報部門や人事研修部門などの関係部門が一丸となって従業員の行動を支え、各部門長の応援もする必要があります。
インタビュー前編は以上になります。1974年から社内広報に携わり、インターナルコミュニケーションに進化していく過程を調査、分析されている清水教授のお話は非常に重みがあるものでした。次回はインターナルコミュニケーションの核となる、経営理念の理解⇒自分ごと化⇒実践についてお話頂きます。

※1 インナーコミュニケーションは和製英語であることから、本投稿ではインターナルコミュニケーションを採用しております。

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